2.区分所有建物の再生の円滑化を図る方策
背景
- マンンションストック数 約704万戸、築40年以上のマンション約140万戸(2023年末)
- マンション建替えの実績297件•約2万4千戸(2024年4月1日時点)
- マンション敷地売却の実績11件•約700戸(2024年4月1日時点)
高経年マンションは今後急増。所有者不明等による合意形成の困難化も2020年7月17日閣議決定「規制改革実施計画」において建替えの円滑化(建替え要件の緩和•所有者不明の者を決議の分母から除く制度)が検討 課題に盛り込まれていた。
2-1.建替え要件の緩和•賃貸借の終了請求
Q2-1A:
Dマンションは、建替えを検討している。ここは旧耐震基準により建てられた昭和50年築のマン ションで、Is値(耐震指数)は0.6未満である。耐震補強工事を行った上で、長寿命化を図っていくことも検討したが、耐震補強工事を行うよりも「建替え派」の方が多数なので、まずは、いわゆる 「建替え推進決議」を行おうと考えている。
理事長は、建替え推進決議に先立って、将来的に建替え決議を 行うのであれば多数決要件がどの程度なのか調べたところ、 区分所有法の改正の動きを知り、改正後の多数決割合を知りたいと考えている。
A2-1A:
(現区分法)
(現区分法)
区分所有者及び議決権の5 分 の4以上の賛成多数であれば 成立
(新区分法)
原則:区分所有者の頭数及び議決権の各5分の4以上の多数決のルールが維持される(新区分所有法 62条1項(旧区分所有法と同じ))
例外:多数決要件を緩和する事由(客観的な緩和事 由)を満たす場合には区分所有者の頭数及び 議決権の各4分の3以上の多数決により成立(新区分所有法62条2項)
解説:
建替え決議の緩和
建替え決議
原則 区分所有者の頭数及び議決権の各5分の4以上の多数決(新区分所有法6 2条1項)
例外多数決要件を緩和する事由(客観的な緩和事由)を満たす場合には各4分 の3以上の多数決により成立(新区分所有法6 2条2項)客観的な緩和事由=旧マンション建替え等円滑化法(現行法)の要除却 認定の要件と同様のもの(ただし、要件緩和の前提として特定行政庁による要 除却の「認定」は不要)
5つの客観的な緩和事由(具体的な基準は法務大臣が定め る)(新区分所有法6 2条2項)
①耐震性の不足(Is値が0.6未満のもの)
②火災に対する安全性の不足(建築基準法令の規定不適合)
③外壁等の剥落により周辺に危害を及ぼすおそれ
④給排水管の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ
⑤バリアフリー基準への不適合
Q2-1B:
Q2-1の数年後、Dマンションでは、建替え決議が成立し た。同決議成立前から501号室に居住している賃借人は、「建替えが実施されても自分は退去しない。 ずっと部屋に居るつもりだ」と主張しています。 建替えに賛成した501号室の区分所有者やその他の 建替え参加者は、501号室からの退去を求めることができるでしようか。
A2-1B:
501号室の区分所有者や建替え参加者は、賃借人 に対して、賃貸借の終了請求をすることができる。
終了請求後6力月経過で501号室の賃貸借契約は終了する。ただし、賃貸人である501号室区分所有者は賃借人に対し補償金を支払 わなければならず、終了請求を賃貸人以外の建替え参加者等が行った 場合には、その者も連帯責任を負う。
解説:
①建替え決議に賛成した各区分所有者
②建替え決議の内容によリ建替えに参加する旨を回答した区分所有者 (これらの承継人を含む)
③ これらの者の全員により指定された者
④賃貸人である区分所有者
賃貸借の終了請求後、6力月を経過すると賃貸借が終了する(同条2項)。
賃貸人は、賃借人に対し、賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金を支払わなければな
らない(同条3項)。また、請求した者は賃貸人と連帯責任を負う(同条4項)。
明渡しと補償金の支払いは同時履行の関係に立つので、賃借人は補償金の支払を受けるまで
は明渡しを拒むことができる(同条5項)。
2-2.建物の更新(一棟リノベーション)
Q2-2:
Eマンションでは、自己負担額の多い建替えではなく、 それを抑えられる可能性のある建替えに代わる工法を 探している。
同マンションの区分所有者は「一棟リノベーション」 という方法によれば、建替えと同様の効果が得られる 上、費用も抑えられる可能性があると知って、これを 実施したいと考えている。全員の同意を得なければこ の工事は進められないのでしようか。
A2-2:
建物の更新=建物の構造上主要な部分の効用の維持又は回復(通常有すべき効用の確保(=現状維 持にとどまらない積極的に価値を増進させるような改修)を含む。)のために共用部分の形状の変 更をし、かつ、これに伴い全ての専有部分の形状、面積又は位置関係の変更をすることをいう(新 区分所有法6 4条の5第1項)。
建物全体をスケルトンにして、専有部分の形状等を組み替える工事を想定。建替え要件と同様の要件で実施できる。
専有部分の形状等を変える工事であるので、従来は、全員同意が必要であった。改正法 によればこれを多数決決議ぐ※)で行うことができるようになる。
2-3新たな再生手法や解消制度等の導入
建替えと同様の決議要件(原則4/5、緩和事由あり3/4)により 以下の決議が可能となった。
① 建物敷地売却決議(新区分所有法6 4条の6 )
②建物取壊し敷地売却決議(同法6 4条の7 )
③取壊し決議(同法6 4条の8)
これまではマンション建替え等円滑化法のマンション敷 地売却により特定要除却認定+4/5決議により区分所有 関係の解消をしていたが、特定要除却認定を受けずに解 消決議ができる
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